保護猫

保護猫さびちゃんがうちにやってきた

保護猫さびちゃん

前回のお話のおさらい

私の毎日の楽しみは、うちのベランダから見える場所で、いつも寝ている猫を観察すること。
数ヶ月間、ただ遠くから見守っていただけだった猫がある日突然私の目の前に現れた。しかし、その猫は近くで見るとあまりにボロボロな状態だった。

保護猫さびちゃんとの出会い2020年夏、私には毎日のささやかな楽しみがあった。 東京都の調布市に住み始めてちょうど一年が経った頃の夏。 いつものように...

その夜、私は寝付けなかった。

「私が見捨てたら死んでしまうんじゃないか。」

「いや、これまでも生きてこられたんだし、きっと大丈夫。」

そんなやりとりが、頭の中で無限ループしていた。

朝方ようやく眠りについて、起きてすぐ、いつものようにベランダに出てにゃんちゃんの姿を確認したけど、いなかった。
外は寒かった。とっても寒かった。その日も1日中にゃんちゃんのことが頭から離れなかった。

寒いと感じるたびに「あの子は大丈夫かな。寒さをしのげる場所を知っているのだろうか」と胸が痛み、何かを食べるたびに「あの子は今日、何か口にできたのだろうか」と、気になって、大好きなケーキも砂を食べているようだった。

その夜のうちに私は決めた。

「あの子をうちで保護しよう。」

そう決心した途端、急に体が軽くなったように感じた。コンビニで猫用のご飯を買って、真っ暗な中近所を探し歩いた。

でも見つからなかった。よく考えたらそうだ。これまでだって何ヶ月の間、1度も会うことがなかった。そう簡単に会える訳がない。

その日から私は、昼夜関係なく1日に何度もにゃんちゃん探しに出掛けた。
だけど、毎日毎日探し歩いたけれど私の前に姿を見せてはくれなかった。

季節は冬、そうこうしているうちにどんどん寒さは厳しくなり、私はもう気が気じゃなかった。

「あの子はどこかでもう死んでいるかもしれない。もしかしたらあの時が最後のチャンスだったのかもしれない。なんで連れて帰らなかったんだろう。」

そんなことばかり考えて、毎日が全然楽しくなかった。

探し始めて1週間が経った12月14日。
この日も昼夜2回探しに行ったけどやっぱり会えなかった。
まもなく日付が変わろうとする時間に、冷えた体を温めようとお風呂に入る準備をしていたら、状況を知る友達からLINEが入った。

「猫ちゃん、見つかった?」

今日は2回探したけど見つからなかった。さっきも探しに行ったけどいなかった。

……だけどなんだかひっかかった。なんか行かなきゃいけない気がした。

私は手に持っていたパジャマとタオルを適当にそのへんにほっぽり出して外に出た。

もしかしたらにゃんちゃんに会えるかもしれない……。

 

こういう、説明しようのない感覚や勘って、なんなんでしょうね。

いたんですよ。にゃんちゃん。

あれだけ毎日毎日、日に何度も探し歩いても見つけられなかったあの子が、うちのマンションの下でうずくまっていたんです。

 

私は、その子を見るなり抱き抱えて、急いで部屋に連れて帰った。

抱き抱えた瞬間に、涙が出そうだった。

信じられないくらい軽かったから。ありえない軽さだったから。

私の腕の中で、にゃんちゃんは抵抗するそぶりもなくじっとしていた。

人懐っこいからなのか、気力がないからなのかわからないけれど、どちらにしても胸が締め付けられる。

明るいところで見ると、本当にボロボロで汚かった。

元々白かったであろう部分はネズミ色で、毛は全体的にダマになって固まっていた。野良猫でもこんなに汚い子は見たことがない。

私は猫を飼ったことがないので扱いがわからず、近所に住む猫好きのKちゃんにきてもらった。
Kちゃんは、10年前に紙袋に入れられて捨てられていた子猫を保護し、今もその子たちと一緒に暮らしている、猫飼いベテランさんだ。心強い。

にゃんちゃんは、いきなり連れてこられた知らない部屋でも動揺することなく、落ち着いていた。

それにしても、人に馴れている。知らない人間がいるのに全く気にしていない。大人しく触らせてもくれる。

だけど、目つきが鋭く、これまで過酷な環境で生き抜いてきた玄人の雰囲気を醸し出していた。大人しいものの、溢れ出る野生を感じる。

よく見ると、体のあちこちに傷があり、後ろ足や後ろ足の指が歪んでいる。
もしかしたら車にでも轢かれたのかもしれない。

にゃんちゃんは、少しだけ室内を歩いたり見渡したりした後、用意しておいたご飯をガツガツ食べた。

このままにゃんちゃんと呼ぶのもなんなので、いったん「さびと」という名前をつけた。

理由は、この時大ブームだったアニメ【鬼滅の刃】に出てくる錆兎(さびと)に目つきが似ていたから。

安易につけた名前だったけど、別にそれでよかった。

保護はしたけれど、私にはさびとを飼う気がなかった。

私は超犬派で、猫を飼ったことがない。猫を飼おうと思ったこともない。
何より、猫アレルギー持ちだった。
ほんの少し猫と触れ合うだけで、喉と目が掻きむしりたくなるほど痒くなり、鼻水が止まらない。

なので今回のことは、あくまでも一時的な保護で、うちで保護して状態が回復したら里親探しをするつもりだった。

ブラッシングして、体を拭いて、毎日十分なご飯と快適で暖かい寝床を提供すれば、あっという間に回復するものだと思っていた。

まさかこの出会いが、これからの私の生活をガラッと変える事になるなんて、たくさんの涙を流す事になるなんて、この時は想像もしていなかった。

 

徐々に話していきますが、これから全く予想していなかった毎日が続く事になります。

いっぱい泣いた。いっぱい悩んだ。寝れない夜もあった。自分の時間なんて持てなくなった。一緒に世話をしてくれたKちゃんともケンカした。

でもね、私たちはこの日を振り返るたびに、心から思うんです。

この日、さびちゃんが私たちの前に現れてくれて本当によかった。

私たちを頼ってくれて本当によかった。

さびちゃん、私たちのこと、選んでくれて本当にありがとう。

って。