保護猫

④保護猫さびちゃんエイズ陽性が判明する

前話のおさらい

一時的とはいえ、保護猫さびととの生活が始まった。
まずは、めちゃくちゃに汚れた状態だったさびとをお風呂に入れて、病院に連れて行くことに。

さびちゃん
③保護猫さびちゃんとの生活が始まった 前話のおさらい ずっと探していたにゃんちゃんをやっと見つけた私は、そのまま抱き抱え、家に連れて帰った。私の腕の中で抵抗する...

さびとは動じない猫。
うちに連れて帰った夜も、お風呂に入れた時も、ドライヤーを当てた時もほぼノーリアクションだった。
病院に連れて行くためにキャリーに入れようとした時も何の抵抗もぜず、病院に行くまでの道のりでもたった一度、しゃがれた声で「に゛ゃ゛っ……。」とかすかにひと鳴きしただけだった。

これからお世話になる動物病院は、東京都調布市の京王線仙川駅から徒歩5分ほどのところにある、リーフ動物病院。

私が住む調布市の保護猫施設の方にご紹介いただいた動物病院で、この動物病院自体が保護猫活動に協力しているらしい。(このブログにはこれから何度もリーフ動物病院が出てきますが、結果を先に書くと、とても良い病院ととても良い先生、そしてとても良いスタッフの方々でした。)

病院について受付を済ませるとすぐに診察室に呼ばれた。診察台には大きめの洗濯ネットが用意してあってびっくりした。さびとが暴れた時用に準備をしてくれていたらしい。

確かに、ずっと外で暮らしていたのにいきなり病院に連れて行かれて大人しくしている猫の方が珍しいか。

だけど、そんな周囲の心配をよそにさびとはキャリーから出して診察台に乗せても驚いたそぶりも怖がるそぶりも、逃げるそぶりも一切なくただじっと座ってくれた。

先生に相談して、今回は糞便検査と今さびとはどんな状態なのか体温や体重などの簡単な検査、そして次の飼い主探しの時に必要な「エイズ検査&白血病検査」をしてもらうことになった。

最初に採血をしてその検査結果が出るのを待つ間に、今のさびとの状態を見てもらった。

まず、さびとは女の子だった。
顔つきから勝手に男の子だと思っていたのでびっくり。

この瞬間、この子は『さびと』から『さびちゃん』になった。
年齢は10歳前後っぽいけれど、年齢を推定する時に参考にする口の中が炎症を起こしていて、はっきりは分からないらしい。

 

触診や体重測定をしながら先生の顔がどんどん険しくなるのがわかり、胸がざわざわした。

先生は少し悲しい顔を私に向けながらゆっくり口を開いた。

「この子は、今すぐに死んでしまっても不思議じゃないほど良くない状態です。
もし、佐々木さんが保護していなければ、今頃もう天国にいたかもしれません。」

先生いわく、ざびちゃんは以下の状態だった。

  • 体重1.7kgの低体重状態(さびちゃんの体格なら最低でも3.5kgは必要)
  • 体温33度の低体温状態(猫の平均体温は約38度)
  • 重度の脱水症状&栄養失調
  • 腎不全の可能性あり
  • 口の中がボロボロ

詳しく検査をしたらさらに何か問題が出てくる可能性が高いそう。

さびちゃんを保護した時に毛がボロボロだったのは、口の中が炎症を起こしてひどい状態だから自力で毛繕い出来ないことも理由のひとつだった。

今の状態では本人の体力の問題で治療ができないので、体温や体重を少しでも平均に近づける必要がある。今私にできることはとにかく、さびちゃんを暖めて、沢山ご飯を食べさせて、たくさん水を飲ませることだと先生は教えてくれた。
そうすれば、ひとまず大丈夫だと。

 

私が思っていたよりずっとさびちゃんは大変な状態だった。

さびちゃん、こんな満身創痍な状態で、すごいね。よくひとりで生きてきたね。本当にすごい。偉かったね。

 

先生が丁寧にさびちゃんに出来ることを教えてくれている時、「エイズ検査&白血病検査」の結果が診察室に届いた。

検査の結果、さびちゃんはエイズ陽性だった。

死にかけの状態の上、エイズにまで感染していた。

エイズに対して何の知識もなく「エイズ=すぐに死んでしまう」と思ってしまい動揺する私に気づいたのか、先生はわかりやすく猫エイズについて教えてくれた。

猫エイズとは
  • 意外とエイズ陽性の猫は多い
  • 人によっては猫エイズを気にせずエイズ陰性の猫と一緒に飼っていることもある
  • 簡単に他の猫に感染はしない
  • エイズに感染したばかりなら、その後体に根付かずエイズが出ていくことがある。数ヶ月後に再検査をしたら陰性の可能性もゼロではない
  • エイズ陽性でも発症しなければ健康状態は通常の猫と変わらないし、生きているうちに発症しない子もいる
  • エイズ陽性と分かっていても引き取ってくれるボランティアさんや猫好きさんは普通にいる

私が思っているより、猫エイズはずっと身近にあって、そんなに珍しくないらしい。

そして現段階では、さびちゃんのエイズが発症しているかどうかは定かではないらしい。

 

どうか発症していませんように。
さびちゃんが天寿を全うするまで発症しませんように。

 

何年後になるかわからないけれど、さびちゃんが虹の橋を渡る時、そこに私はいないし、きっとその事実を知ることさえない。
その頃には、私はすっかりさびちゃんのことを忘れて毎日を生きているだろう。

それでも願わずにはいられなかった。

 

最後に先生は教えてくれた。

「さびちゃんは、肉球や爪、手術痕などから考えて、ほぼ確実に元々飼い猫です。状態からして野良猫になって1年未満だと思います。」

 

そんな気はしていた。
だけど、その事実を改めて言葉にして聞くと、悲しさと怒りがこみ上げてきた。

 

さびちゃんは、急に野良猫になった。

これまで当たり前にもらっていたご飯が突然なくなった。

これまで当たり前にあった温かい場所が突然なくなった。

これまで当たり前に飲めた清潔な水が突然なくなった。

これまで当たり前にあった安全が突然全部なくなった。

これまで当たり前にそばにいた大好きな飼い主さんが突然いなくなった。

 

さびちゃんはその理由を知らないし、誰も教えてくれない。

どれほど心細かったことか。どれほど怖かったことか。どれほど寂しかったことか。

急に野良猫になったさびちゃんは、野生に順応できずに、ひどい栄養失調と脱水症状でガリガリ。歩く時もフラフラしていた。

突然、全てがなくなって、お腹が減って、寒くて、喉が乾いて、誰も撫でてくれなくて。

私が知っている期間だけでも4ヶ月ほどさびちゃんはひとりでさまよっていた。
さびちゃんはいったいどんな気持ちで毎日を過ごしていたんだろう。

お腹が減るたびに飼い主さんのことを思い出しただろうか。

寒くて震えるたびに、自分の家やお気に入りのブランケットを思い浮かべたんだろうか。

飼い主さんに会いたいと何百回願っただろうか。何百回飼い主さんを恋しく思っただろうか。

記憶をたどって家に帰ろうとしたこともあるのだろうか。

 

もしかしたらさびちゃんは間違えて脱走してそのまま見つけてもらえなかった可能性はある。

だけど、事実、さびちゃんはこんなに大変な思いをしている。

元飼い主は、こんなにボロボロになったさびちゃんを見て何を感じるだろうか。

目の前にいるさびちゃんは、ボロボロでガリガリで、どれだけ大変な思いをしてきたか聞かなくてもわかる。

私はさびちゃんを撫でた。
心のなかで、「もう大丈夫だよ。よくがんばったね。えらいね。」って何度も何度もさびちゃんに話しかけながら、いっぱい撫でた。

 

この日の支払いは8,000円弱。

ついでに、ノミダニ予防?もしてもらった。
家計にはひびくけれどさびちゃんの現状を知ることができて本当によかった。

 

病院の帰りにホームセンターに寄って、さびちゃんを温めるための湯たんぽやお洋服、その他必要な物を買った。

さびちゃんとさびちゃんグッズを抱えて家に着くと、Kちゃんが100均のワイヤーワックをつなげてさびちゃんのおうちを作ってくれていたから、急いでブランケットや湯たんぽを準備して、先ほど買ったばかりのお洋服をさびちゃんに着せておうちに入れてみた。

気に入ってくれたみたいで、さびちゃんはそのまま眠りについた。

今日、病院で教えてもらったこと、検査結果をKちゃんにも伝えた。

Kちゃんは寝ているさびちゃんをゆっくり撫でながら何度も何度も「よく頑張ったね。もう安心していいからね。」と呟いていた。

さびちゃん。こんなになるまでよくひとりで頑張ったね。

もう大丈夫。

もう何も心配しなくて大丈夫。

私たちが絶対にさびちゃんのこと、何とかするからね。

 

すやすや眠るさびちゃんの顔を見ながら強く誓った。